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広島高等裁判所 昭和24年(う)454号 判決 1949年12月03日

被告人

岡田新一

主文

本件各控訴は之を棄却する。

理由

(二)訴因の変更は刑事訴訟法第三百十二條により公訴事実の同一性を害しない限度においてのみ許さるべきであるが変更前後の訴因は事実関係が同一でないからこれを許したことは訴訟手続が違法であるというのであるが本件起訴状記載の公訴事実は前示物件を販賣したものであるというのを所持していたものであると変更したものであるが所持と販賣とは法律的実体形成において勿論同一とはいえないが公訴事実の同一性というのは犯罪事実の実体の問題であつて起訴状摘示にもれている部分であつても観念的乃至潜在的に又事実の常態において審判の対象となつているものがある。斯かる場合においてはそれは当然公訴事実に包含されていると考えるべきである。單に物の賣買契約をなす場合にあつては其の行爲の中に其の物の所持を伴わない場合があるが現実に物を販賣する場合にあつては之れが所持を伴うことは常態である。

斯かる場合においては販賣したという公訴の効力は單に販賣の事実のみならず所持の事実にも及ぶものであることは公訴の不可分乃至審判不可分の原則上当然といわねばならぬ。而して本件記録を閲すに被告人は昭和二十一年十二月頃折重薰造から前示物件を買受け昭和二十二年二月頃之を池永正方に持参し同人に販賣したという事実に対し被告人は右物件を折重より買受けた事実及び池永に之を販賣した事実を否認しているが前示日時に右物件を折重より入手し被告人自宅に持ち帰り前示日時において之を池永方に持参し同人に渡したる事実は自認するところである右事実に対し檢事は起訴状記載の「被告人は昭和二十二年二月頃池永正方において同人に対し麻藥である塩酸コカイン二十五瓦入瓶十四本を代價約一万六千円で販賣したものである」という公訴事実を前示の通り変更したものであつてこの事実関係においてはその販賣の事実は基本的事実において当然所持を含むものであるから前示訴因の変更は其の範囲を減縮したものに過きず刑事訴訟法第三百十二條に所謂公訴事実の同一性を害するものということはできないから原審裁判所が之を許容したことは何等違法はない論旨は理由がない。

(註) 本件は、檢察官と被告人との双方から控訴。

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